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水槽
ざあざあと雨の帳が下りている。それ越しに見る世界は、水槽の中から覗き込む時と同じ風景なのかもしれない。
けれど雨は、私を閉じ込めない。傘を揺らして、外へ歩き出す。
金魚
ひらり、ひらり。私は渋谷のスクランブル交差点を上手く歩けないけれど、金魚は屋台の水槽の中でも優雅に泳いでいる。
彼らは壁に頭をぶつけても、振り返った瞬間にはぶつけたことを忘れているから、ストレス無く生きていける。いつか読んだ本に書いてあった。
ねぇ、可哀想なのは私かな?金魚かな?
誘惑
尾びれをふわりと揺らすように、擦れ違った後、振り返って微笑んだ。
淡いルージュをひいた唇を綺麗に引き上げ、たれ目に見えるようにひいたアイラインで絡め取る。
捨てたこと、後悔した?
いつかの恋人に背を向け、映画のようにヒールを鳴らし、水溜りを蹴散らす。
溺死
あの頃は、恋する自分に溺れていた。
誰かを好きな自分に足をとられ、彼と過ごす時間に身を沈め、他の何をも振り切って呼吸を忘れていた。
今思い出すと、あの頃の自分を水の底まで沈めてやりたいと思う。まじで。
水葬
家の近くで、傘を閉じた。
あはははは、気持ちいい。どうせクリーニングに出そうと思っていたスーツだ。濡れたって構わない。
ばいばい、そう呟いて空を仰いだ。
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