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「あ、これ可愛いですよ?」
シュシュを指差してそう言う狐モドキの方が、わたしより余程乙女だ。
狐モドキと買い物に行く
帰り道。
目薬が欲しくて駅前のドラッグストアに寄ったら、狐モドキと鉢合わせした。
青あざを作ってしまったそうで、手には湿布を持っている。
「また風邪をひいたのかと思いました」
「・・・ひかないように、気をつけてるよ」
そのまま一緒に店内を回る流れになり、ゆっくりと左右の陳列棚へ視線を走らせながら歩いた。
そして、化粧コーナーへ入った所で、狐モドキは足を止める。
「あ、これ。幼馴染が使ってるって言ってました」
狐モドキがそう言って手に取ったのは、青い瓶の化粧水だ。
「値段が手頃で使いやすいって、言ってましたよ」
そのまま手渡されたそれを見下ろしながら、そうか、自分も肌のことを考えないといけない年なのか、と感慨深く思った。
そのまま揃いの乳液も渡されて、思わず受け取る。
「メイクはしないんですか?」
「・・・やり方、分からない」
そう言ったら、一瞬ぽかんとしてから、狐モドキはくつくつと笑い始めた。
「そ、そうか、まりあさん仲の良い女友達がいなくて聞けな」
「うるさい」
臑を蹴ったけれど、その笑いは収まらない。
だからもう放っておくことにして、店内の奥の方へ進んでいった。
色とりどりの、マニキュア、口紅、アイシャドウ・・・
見るのは楽しいけれど、正直、用途が不明すぎた。
綺麗に化粧をしている同級生を見て、良いな、と思ったことはある。
けれど、実際にやりたい、とは思わなかった。
・・・やれない、というのも、理由の一つではあるけれど。
「あ、まりあさん、このアイシャドウ凄く綺麗ですよ」
いつの間にか再び隣にいた狐モドキは、ひょいと陳列されている商品の一つを手に取った。
溶けるようなゴールド。煌くブラウン。紫にも似た花のピンク。
それらの色が並んだアイシャドウをしげしげと見詰めながら、くすりと笑んだ。
「これは、まりあさんが似合いそうですね」
「大事な幼馴染さんは?」
「んー・・・これ?」
殆ど躊躇わずにその手がとったのは、バレンシアオレンジと透けるようなシルバー。
「元気な子なの?」
「はい、とっても」
くしゃりと、微笑んだ。
結局その日は目薬と化粧水、乳液を買って帰った。
そして次の日、狐モドキから渡されたのはメールを印刷した紙だ。
「はい、どうぞ」
「・・・なぁに?」
「メイク入門編。美容マニアの幼馴染殿が送ってくれたんです」
受け取って内容を見ると、簡単な化粧の方法とおすすめの商品名がずらりと書いてある。
「それはパソコンですけど、携帯のメアドを教えて貰えればそちらへ直接連絡するよ、って言ってました」
「・・・携帯、持ってないの」
「・・・あれ。そういえば」
さわり、と、頬を撫でる風が吹いた。
「じゃあ、まずはそこからですね」
必要ないと思っていたけれど。
誰かと繋がるツールは、確かに、この世界で生きていく以上は必要なのかもしれない。
「心配しながら家で待ってる茨さんも、まりあさんが携帯を持っていれば多少安心できるはずです」
「そう、かな」
そうですよ、と念押しされて、小さく頷く。
確か、携帯を買うには親の同意書が必要なはずだ。
今度、伯母様にお願いをしようと決めて、座っていたベンチから立ち上がった。
(美容マニアの幼馴染=さよならダージリンの子です
三章の何処かでマリが、ソウイチの幼馴染のじゅんちゃんに会いに行きたい、
と言っていたそのじゅんちゃんも同一人物。二人はメル友!)
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