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プレゼントを渡したら、彼女は目をまん丸にして言った。
「クリスマスって、鶏の胸肉のフライとケーキを食べる日じゃないの?」
・・・微妙に違う。
Nice to meet you , Mr. Snta Claus
二人で過ごす、初めての冬。
誕生日に引き続き、彼女はクリスマスの何たるかを勿論知らなかった。
だから、七面鳥を焼く・・・のは流石にオーブンが無くて出来ないから、骨付きチキンを揚げ、サラダやパスタを作り、アルコールの入っていないシャンパンを用意し、ホテルのクリスマスケーキを買ってきた。
街の雰囲気に浮かれているのは、自分かもしれない。
それでも良い、ともかく彼女にクリスマスを楽しんで欲しい。
そんな訳で、二人でご馳走を平らげ、用意しておいたクリスマスプレゼントを渡したのだった。
そして、満腹になってすとんと眠りに落ちた彼女の枕元へ、最後の仕上げ。
そう、サンタクロースからのクリスマスプレゼント。
床に落ちてしまわぬよう注意して枕元へ小さな包みを置き、そっと額へ口付けた。
「メリークリスマス、マリ」
すやすやと、平和な寝息。
それに微笑んで、そっと扉を閉めたのだった。
翌朝。
バタバタと駆け足で部屋に飛び込んできた彼女は、昨晩枕元に置いた包みを片手にこちらを揺り起こしてきた。
「イバラ、起きて。イバラ」
「んー・・・なぁに、マリ。もう少し寝かせて・・・」
「起きたら枕元にこの包みがあったの。置いた?」
「・・・・・・ううん、僕じゃないよ」
一気に目が覚めたけれど、眠たい振りをして誤魔化す。
そう、サンタクロースが自分だと気付かれる訳にはいかないのだ。
そんな事を考えている間に、彼女も彼女で考え事が一周したらしい。
分かった、と呟き部屋を出て行こうとするその表情が神妙としたものだったから、思わず手首を掴んで布団の中に引きずり込んだ。
「ちょ、待ってマリ、何考えてたの今っ」
「・・・だって、イバラが置いたんじゃなければ、泥棒が入ったって事でしょう?警察に通報しないと」
「わ、ちがっ違うマリ!それ、サンタさん!!」
「・・・サンタ?」
「そう!白いお髭に赤いお洋服のおじいちゃん!サンタクロースが置いてったんだと思うっ!!」
「なに、その愉快な格好の人」
引き止めて、本当に良かった。
こんなくだらない事で電話がきたら、さすがの警察だって堪忍袋の緒が切れるに違い無い。
もがき電話の置いてある場所まで行こうとする彼女を必死に抱き締め、慌てて説明をした。
「サンタクロース!子どもが寝ている間に枕元へプレゼントを置いていってくれるんだよっ」
「どうやって家に入ったの」
「それは、サンタさんの企業秘密!!」
「それって簡単に泥棒になれるよね?やっぱり警察に連絡した方が」
「わぁぁぁぁ、違うのマリ、サンタさんは毎年プレゼントを配る時にしかその力使わないから大丈夫なの!」
そう言ったら、彼女の動きがぴたりと止まる。
そして、こちらの顔を見上げながら聞いてきた。
「・・・本当に?」
「本当に!」
「信じられるの?」
「サンタさん嘘つかない!」
訝しむような瞳へ、何度も頷いてみせる。
それで漸く納得したのか、分かった、と呟いた彼女は布団の中で体を丸めた。
・・・あぁ、まったく本当に。クリスマスも、命懸けだ。
包みの中には、ステンドグラスの万華鏡。
先日、街で見かけたそれをじっと見ていたから、欲しいのかと思って買っておいたのだ。
案の定、彼女は口を一文字に結び、ほんの少し眉をしかめた微妙な表情で(最近分かったのだけれど、それは彼女の嬉しい時の表情だ)、それを見詰めていた。
「良かったね」
そう言って笑いかけると、ちらりとこちらを見て、再び万華鏡へ視線を戻す。
「・・・うん」
そう呟いた彼女の横顔は、とてもあどけなくて可愛かった。
尚、その日の内に本屋さんへ行き、サンタクロースの絵本を一冊買ってきて、彼女にサンタクロースの何たるかを説明した。
「・・・あぁ、サンタクロースってこのおじさんの事だったんだ」
クリスマスになるとよく見掛けるな、とは思っていたけれど。
そう付け足して、彼女は絵本をぎゅうと抱き締めた。
きっと、まともにクリスマスをお祝いしたのも初めてなのだろう。
とりあえず喜んで貰えたようで、一安心。
「来年も、サンタさんくると良いね?」
そう言ったら、彼女は首を傾げた。
「うん。寝ないで来るのを待って、どうやって家に入ってきたのか聞きたい」
「・・・そ、そっか」
・・・・・・来年は、料理に睡眠薬を入れておこうかな。